空になった、白いボトル

夜、風呂のあとの洗面所。

みはるさんの家は4人家族。夫のさとるさんと、小5の双子の、兄のかえでと、妹のあやめ。

9月のはじめ、あやめが、ひじの内側をかいていた。少し赤かった。みはるさんは、家族で使っているボディソープを、あやめにだけ、使うのをやめてもらった。あやめは、そのあいだ、浴室にあった石けんで洗った。

ほかの3人は、同じボディソープを使いつづけて、何もなかった。あやめの赤みも、このごろは、もう目立たない。肌は、季節や汗でも変わる。何のせいだったのかは、分からないままだ。

髪にタオルを巻いた、長袖の寝間着のあやめが言った。

「せっけん、泡立てるの、めんどう」

みはるさんは、開けたままの扉の奥の、浴室の棚に手を伸ばした。シャンプーが4本と、白いボトルが1本。ポンプを押すと、すかっと空の音がした。

空のボトルを、裏返す。何も書いていない。中身は、ずっと詰め替えて使ってきた。詰め替えの袋は、もう捨ててある。

「……この中身、何だったっけ」

その先は、声にしなかった。

「みんなで1本のまま?あやめの分だけ?……何を見て?」

「次のボディソープ、一緒に選ぶ?」

あやめは、タオルの端を押さえたまま「いいよ」と言った。週末に、行くことにした。

夜の洗面所。髪を白いタオルで包んだ、オートミール色の長袖のパジャマのあやめが、タオルの端を押さえて、みはるさんのほうを見ている。ネイビーの長袖のみはるさんが、ラベルのない白いポンプのボトルを手に、あやめに話しかけている。奥に洗濯機と小さな窓、右に開いた浴室の扉

あなたの家のボディソープ、裏に何が書いてあるか、読めますか?

選ぶ前に、見る所

大人用か子ども用かより、香料や色と、家族の誰に合わせるか

大人と同じ物にするか、分けるかは、家で決めてかまいません。大人用か子ども用かで分けた学会や国の決まりは、見つかりませんでした。皮膚科とアレルギーの学会が出している、かゆい湿疹をくり返す病気(アトピー性皮膚炎)の指針も、年齢や季節、体の場所で変わる、その人の肌の状態に合わせて、と書いています。店で見るのは3つ。それと、買ったあとの洗い方です。

香料や色が、少ないか

体を洗う物には、石けんと、合成の洗う成分を使った物があります。同じ指針(2024年)でも、どちらが上という根拠はない、としています。

店で見られるのは、香料や着色料のような、足している物です。裏の成分の欄に、香りをつけた物なら「香料」の名前があり、化粧品なら、多くは欄の終わりのほうに出てきます(医薬部外品は、最初に有効成分が来るなど、並べ方の決まりが違います)。植物のエキスや精油も、香りのもとや、まれにかぶれのもとになることがあります。「無香料」でも入っていることがあります。香りは、家族で好みが分かれる所でもあります。

同じ指針は、その病気の人に、香りや色の少ない物、洗ったあと乾きすぎない物を、という見方を挙げています。肌の気になる人の目安にもなります。

表に書いた言葉は、作り手の説明として

「敏感肌用」「子ども用」は、作り手が誰に向けて作ったかの言葉です。「無添加」なら、何を入れていないのかまで書いてあるかを見ます。どれも、その子に合うという約束ではありません。

「アレルギーテスト済み」と書く物には、「すべての方にアレルギーが起こらないというわけではありません」と近くに添える決まりがあります(化粧品の業界の決まり)。たいてい、小さな字です。合うかどうかは、使ってみないと分かりません。

「医薬部外品(薬用)」は、国が認めた働き(効能)を書いてよい物です。働きは裏の「効能」に書いてあることが多く、体と髪で違うこともあります。薬用でも、湿疹を治す物ではなく、肌にやさしいという印でもありません。

ボトルの裏の欄の図。字の代わりに灰色の線が並ぶ。上の2行に枠と「医薬部外品なら最初に有効成分」。長い欄の終わりの3行に枠と「化粧品なら、香料などは終わりのほう」。いちばん下の離れた行に枠と「※の小さな字」
裏の欄で、目をやる所(化粧品と医薬部外品の見る所を1つに)

家族で1本にするなら、肌の気になる人から

まず、肌の気になる人が使える物を、家族の1本にできるかを考えます。香りの好みが割れたら、よく汗をかく人がいたら、年ごろで「親と同じはいや」と言われたら、その人の分だけ分けます。新しい1本は、使いはじめのうち、肌に赤みやかゆみが出ないかを見ます。出たら、使うのをやめます。

頭から足まで、1本で洗える物もあります(「全身シャンプー」など)。

値段は、作り手と量でかなり違います。参考に、いくつかの作り手の泡のボディソープを通販で見ると、500mLほどの1本で、900円ほどから1,800円ほどまでありました(税込、送料は別。2026年10月に確認)。店では、これより安く売られていることもあります。詰め替え用は、本体より量のわりに安いことが多くあります。

買ったあとの、洗い方

  1. よく泡立てた泡(泡で出る物はそのまま)をのせて、手のひらでなでる。こすらない。
  2. 乾く季節は、使う量を少なめに。汗や皮脂の多い所、塗り薬を毎日塗っている所は、しっかり泡で。
  3. ひじの内側、ひざの裏、わきの下は、しわを伸ばして。首や耳の後ろも。関節は、洗えていないことの多い所です。
  4. しわの中まで、よく流す。お湯は、熱すぎない38〜40℃くらいに。
  5. 風呂上がりは、早めに保湿。
前に出した腕の内側に、白くこんもりした泡。もう片方の手が、指をそろえた平らな手のひらで、泡の上を軽くなでている。小さな泡がいくつか浮いている
腕の内側も、泡の上からなでるだけ

ナイロンのタオルのような硬い物でこすることや、すすぎ残しも、肌の負担になります(学会の指針)。小さい子を大人が洗うときも、同じです。赤ちゃんの湿疹は、洗い方も含めて、小児科か皮膚科で。

こんなときは、物を替えつづけるより先に、皮膚科やかかりつけの小児科へ。

  • ・湿疹のある所に、小さな水ぶくれやただれが急に増える(顔や首に多く、熱が出ることも)。その日のうちに
  • ・かき壊した所が、じくじくする
  • ・水ぶくれや黄色いかさぶたが広がる(とびひ)。タオルは分けて
  • ・かゆくて眠れない
  • ・良くなったり悪くなったりを、くり返す
  • ・物を替えて1〜2週間たっても引かない

多くの容器にある、傷や湿疹など異常のある所には使わない、という注意は、そうした所では、しみたり悪くなったりすることがあるためです。すり傷は、水で流します。湿疹の所も、汗や汚れを落として清潔にすることは大切です。洗う物を使わないのではなく、何で、どうやさしく洗うかを、皮膚科で聞きます。しみるときは、無理に洗う物を使わず、ぬるめのお湯でやさしく流しておきます。

受診のときは、使っていた物と、成分の全部が書いてある物を持っていけます。詰め替えるなら、その品の容器に。袋の裏は、取っておきます。

香料や色は、成分の欄で。表に書いた言葉は、作り手の説明として。家族の1本は、肌の気になる人から。

出典

  • 肌の状態で選ぶ・石けんと合成の洗う成分・足している物・硬いタオルとすすぎ残し・お湯の温度・湿疹のある肌も清潔に・風呂上がりの保湿:日本皮膚科学会・日本アレルギー学会「アトピー性皮膚炎診療ガイドライン」(2024年)
  • 関節のしわ:東京都「アレルギー情報navi.」
  • 表示の言葉・「アレルギーテスト済み」の添え書き・化粧品と医薬部外品・詰め替え・異常が出たらやめる・受診のときに持っていく物・乾く季節の量:日本化粧品工業会

歩いて行ける、ドラッグストアで

その週末の昼。歩いて行けるドラッグストアは、春にシャンプーを選び直したのと同じ店だ。歯みがき粉を選んだ日に通り過ぎた棚の前で、今日は止まる。

ボディソープの棚は、大きなボトルと、詰め替えの袋と、泡で出る物と、固形の石けんが、上から下まで並んでいる。子ども向けの、果物の絵の物もある。

あやめは、果物の絵の1本を取って、ふたに鼻を近づけた。

「いいにおい」

ドラッグストアのボディソープの棚。大きなボトル、詰め替えの袋、泡のボトル、箱の石けんが上から下まで並ぶ。明るい灰色のスウェットのあやめが、果物の絵のボトルを両手で持ち、目を閉じてふたに鼻を近づけている。スレートブルーのシャツのみはるさんが、白いかごを腕にかけて、横から見ている

裏を見る。成分の欄の、終わりのほうに「香料」とある。

「……においって、足してるんだ」

あやめは、少し考えてから、ボトルを棚に戻した。

「香りは、シャンプーのでいい」

春に選び直した、あやめのシャンプーの香りだ。

隣の1本の表には、「敏感肌・乾燥肌の方へ」。その下に、「アレルギーテスト済み」とあった。あやめが、その横の小さな「※」を見つけて、下の字を読む。

店の棚の前。灰色のスウェットの袖の両手が、クリーム色のボトルを裏返して持ち、裏の欄のいちばん下の小さな行を、人さし指でなぞっている

「すべての方に……起こらないというわけではありません」

「じゃあ、使ってみないと分かんないじゃん」

「そう」

みはるさんは、それだけ答えた。

あやめが、表の字をもう一度見る。

「敏感肌って、私?」

「作った人が、誰に向けたかの言葉。合うかは、さっきの※と同じ」

泡で出て、香りのない1本があった。サーモンピンクのボトルだ。表の帯に、「全身シャンプー」の字がある。

「シャンプーって書いてある」

「頭から足まで、洗えるんだって」

「髪は、今のでいい」

あやめは、その1本を、しばらく黙って見ていた。

値札を見て、みはるさんは、4人で毎日使ったら、と考えた。前の詰め替えより、高くつく。それから、夫の顔が浮かんだ。

「さとるさんは、においで選ぶ人だ」

泡なら、あやめが自分で洗える。香りは、シャンプーにある。まずは家族の1本を、これにしてみる。合わない人がいたら、その人の分だけ分ければいい。

あやめが、ボトルを両手で持って、かごに入れた。

その夜の、洗面所で

夜。浴室の棚の、シャンプー4本の右の端に、サーモンピンクのボトルが立った。前の白いボトルがあった場所だ。

夜の浴室。開いた扉の向こう、壁の棚に、緑・クリーム・ピンク・青灰のシャンプーが4本と、その右に、サーモンピンクの丸い胴に薄紫の泡のポンプのボトルが1本。前は白いボトルが立っていた場所

風呂から、あやめの声がした。

「ひざの裏も、しわ、伸ばすんだっけ」

「わきの下もね。泡をのせて、なでて、よく流して」

上がってきたあやめに、みはるさんは聞いた。

「泡、どう?」

「すぐ出る。……楽」

あとから風呂に入ったさとるさんが、首にかけたタオルで髪をふきながら出てきた。

「……においが、しないな」

「しないのにしたの。合わなかったら、さとるさんの分だけ、分けるから」

「……まあ、しばらく、これで」

みはるさんは、浴室の棚から、新しいボトルを取って裏返した。小さな字が、びっしり並んでいる。

詰め替えの袋を買ったら、裏は、取っておこう。