去年と、同じやり方で

夏の午後のリビングのテーブル。学校のプリント、新聞紙の上に去年の白い上履き、紺の通学リュック、閉じたピンクの筆箱

夏休みの最後の週。小5の双子、かえでとあやめの母、みはるさんは、リビングのテーブルに学校からのプリントを広げた。「二学期の持ち物について」。上履き、通学リュック、筆箱、水筒。

毎年この時期は、同じやり方でやってきた。去年のものを出して、まだ使えるか確かめて、足りないものだけ買い足す。

水筒は、いい。運動会の前に、かえでの分とあやめの分を分けて考えて、新しくしたばかりだ。

上履きを出す。かえでが片足だけ突っ込んで、すぐ脱いだ。

「きつい」

夏のあいだに、また足が大きくなっている。これは買う。サイズは、親が見る。ここまでは、いつも通り。

リュックを出す。かえでは4年生の春にランドセルをやめて、これにした。タブレットと水筒で、毎朝「重い」と言っていたから。学校は、どちらで通ってもいいことになっている。あやめは、ランドセルのままだ。

かえでが横からのぞいて言った。

「あのさ、友達のリュック、横のポケットが大きくて、水筒が、すぐ取れるんだよ」

去年は、リュックのことなんて何も言わなかった。

あやめは、去年の筆箱を手に取って、開けて、閉じた。ピンクの、去年みはるさんが選んできたいくつかの中から、あやめが「これがいい」と言った筆箱。しばらくそのまま持ってから、言った。

「……これ、もういい」

「え、壊れた?」

「壊れてない。もういいの。自分で選びたい」

夏の午後のテーブル。ラベンダーの袖の女の子の両手が、閉じたピンクの筆箱を持ち上げている。奥に、新聞紙の上の白い上履き、学校のプリント、紺のリュック

この数か月で、みはるさんは、買い物で迷わなくなってきた。「売れてるやつ」でなく、自分の理由で選ぶ。迷ったら、3秒だけ立ち止まる。そして「私は何を大切にしたいんだっけ?」と自分に聞く。それだけのことで、「次は、何を選ぼうかな」と思えるようにも、なっていた。

だから、今も立ち止まってみる。3秒。

でも、いつもと違う。何を選ぶかの前に、別の問いが立っている。

「これ、誰が決める?」

かえでの足のサイズは、みはるさんが見ればいい。じゃあ、リュックは? ポケットの大きさがちょうどいいかどうかは、毎日背負うかえでにしか分からない。筆箱は? あやめは「自分で」と言っている。でも、まだ小5だ。

ふたりとも、好きなものなら、もう自分で選べる。この前ホームセンターで、かえではドライバーセットを、あやめは水色のコースターを、自分で選んでいた。でも学校の持ち物は、値段が違う。半年は毎日使う。失敗したら困るのは、誰だろう。

「選べるようにはなった。でも、誰が選ぶかは、決めていなかった」

あなたの家では、子どもの持ち物、誰が選んでいますか?

4つの見方で、仕分ける

全部を親が決めなくていい。でも、全部を任せるのも、まだ早い。

子どもの持ち物が難しいのは、種類が多いからだけじゃありません。買うのは親で、使うのは子ども。「なぜこれにしたか」を、親の理由で言うのか、子どもの理由で言うのか。それが、持ち物ごとに違います。

大切なのは、「なぜこれにしたか」が言えること。子どもの持ち物では、その「なぜ」を誰が言うのかが、先に来ます。

だから、迷ったら、4つの見方で仕分けてみてください。

誰が選ぶか、で考える

  • 親が選ぶ:上履き。足の成長は、親が見る。親は、決める
  • 一緒に選ぶ:リュック・水筒。機能は親、好みは子ども。親は、見方を伝える
  • 子どもが選ぶ:文房具。失敗できる値段。親は、見守る

小5は、この境目がいちばん動く時期です。「去年までは私が選んでいたのに」は、むしろ順調に育っている印。親の役割は、「決める人」から「隣にいる人」に変わっていきます。

いつまで、で考える

半年で体が変わる。一年後にはもう使わない。「長く使えるいいもの」が正解じゃないことがあります。今の半年に合うもので十分な場面も。

毎日のこと、で考える

使うのは子ども。でも洗うのは、直すのは、朝そろえるのは親。パーツが多い、乾きにくい、紐がからむ。毎朝のストレスの正体は、スペック表には載っていません。

その子、で考える

かえでとあやめでは、合うものが違う。同じ年齢、同じ家、同じ学校でも。きょうだいだからといって、同じものをそろえなくていい。

誰が選ぶかを先に決めると、残りの3つは、その人の目で見ればよくなります。

うちの持ち物を、見て回る

玄関の壁のフックに、紺の通学リュックとラベンダーのランドセル。下のベンチに、上履きと背の高いミントの水筒、それより低いラベンダーの水筒とピンクの筆箱
  • 水筒

    「運動会の前は、かえでは容量と洗いやすさ、あやめは軽さと開けやすさ。ふたりを見て、分けて考えた。でも決めたのは、私。次は色くらい、あやめに選ばせてもいいかもしれない」

    容量や保温は親が見る。飲み口の形、蓋の開けやすさは、毎日使う子どもにしか分からない。

  • 通学リュック

    「『ポケットが大きい』は、もう立派な選ぶ理由だ。今度、かえでと一緒に見に行こう」

    肩紐の位置、背中のフィット感。半年で体格が変わる時期は、「6年使える」より「今年の体に合う」が先。使い勝手は、背負う本人が知っている。ランドセル以外で通えるかは、学校によって違います。先に確かめてから。

  • 文房具

    「筆箱は、あやめに任せてみよう。『好きなの選んでおいで』を言いやすい場所から」

    鉛筆の太さ、消しゴムの好み、筆箱の大きさ。授業中ずっと手に触れているもの。値段も手ごろで、失敗しても痛くない。

  • 上履き・靴

    「かえでの『きつい』は、私が見る。ここは親の仕事」

    足のサイズは数か月で変わる。幅や甲の高さは、子ども自身には分かりにくい。好みは聞きつつ、フィットは親が確かめる。

同じテーブルで

その日の夕方。みはるさんは、プリントの余白に、持ち物ごとに書き込んだ。上履きは、みはるさん。リュックは、かえでと一緒。筆箱は、あやめ。水筒は、もうある。

「かえで、あやめ、こっち来て」

ふたりがテーブルに並ぶ。去年までは、みはるさんが一人でやっていたことだ。

夕方のリビングのテーブルに、みはるさんとかえで、あやめ。かえでは身を乗り出して指さし、あやめはピンクの筆箱に手を置いている

「上履きは、明日私が買ってくる。サイズだけは、ちゃんと測らせて」

「うん」

「リュックは、週末に一緒に見に行こう。横のポケットが大きいやつ」

「まじで?」

「筆箱は……あやめ、好きなの選んでおいで」

「ほんと? やった」

「ピンクじゃなくてもいい?」

「ピンクじゃなくてもいい」

「私が選べるようになった、その次は……渡す番なんだ」