風呂のあとの、洗面所で

夜、風呂のあとの洗面所。

みはるさんの家は4人家族。夫のさとるさんと、小5の双子の、兄のかえでと、妹のあやめ。

あやめが、歯ブラシを取った。洗面台の端の、子ども用のいちご味は素通りして、大人用のチューブに手を伸ばす。歯ブラシの先に、ほんの少しだけ出して、くわえた。からそうに、口をすぼめる。

「からいなら、いちごでいいのに」

「いちごは、もういい」

あやめは、それだけ言って、みがきつづけた。

隣で、かえでが、いちご味を歯ブラシいっぱいに出した。

「いちご、なくなったら、次もいちご?」

「まだ、いっぱいあるし」

ピンクのチューブは、まだふっくらしている。大人用のほうは、もう平たい。みはるさんとさとるさんと、このごろはあやめも、朝と夜に使うから、減りが早い。

半月ほど前に、洗面所の物を見直した。そのとき、歯みがき粉は、6歳からは家族みんな同じ濃さでいい、と決めた。大人用の裏には「1450ppm」とある。いちごの裏には、「フッ化ナトリウム」の字はあるけれど、数字がない。

切れたら、同じ物を買い足す。これまでは、それで済んでいた。

みはるさんは、ふたりの歯ブラシを見比べた。

「からいのを、ほんの少し。いちごを、たっぷり。どっちが、ましなんだろう」

あなたの家の子どもは、どの歯みがき粉を、どれくらいつけていますか?

選ぶ前に、見る所

6歳からは、大人と同じ濃さで

子ども用か大人用かでは、決めません。見る所は3つ。濃さ、量、家族で1本にできるかです。

濃さは、箱の年齢より、裏の数字で

むし歯を防ぐ歯みがき粉の多くには、フッ素が入っています。フッ素の入った物は、歯が生えたときから使えます。濃さは年齢で変わり、日本小児歯科学会など、歯科の4つの学会の目安(2023年)では、6歳からは、大人と同じ濃さ(フッ素1400〜1500ppm)を使います。ppmは、濃さの単位です。

6歳で線を引くのは、幼い子ほど歯みがき粉を飲み込みやすく、フッ素をとりすぎて、これから生える永久歯に白い斑点が出る心配があるからです。年齢ごとの目安の量を守れば、心配はいりません。6歳から濃くするのは、その歯を守るためです。小学生のころは、生えたばかりの永久歯が多い時期。生えてから2〜4年の歯は、まだ酸に溶けやすいといわれます。

濃さは、箱かチューブの表に書いてあるか、裏の「薬用成分」の欄にあります。「フッ化ナトリウム(フッ素として1450ppm)」のように1400〜1500の数字があれば、大人と同じ濃さです。数字がなければ、1000ppm以下か、フッ素が入っていない物です。2017年から、1000ppmを超える物にだけ、濃さを書く決まりになったからです。フッ素が入っているかは、同じ欄の「フッ化ナトリウム」「モノフルオロリン酸ナトリウム」などの字で分かります。「950ppm」のように、1000以下の数字を書いた物もあります。

歯みがき粉のチューブの裏を2本並べた図。左のチューブの成分の欄には、太い枠の中に「6歳未満は控える」、その下に「フッ素 1450ppm」。右のチューブの欄には「数字がない」「1000ppm以下か、フッ素なし」
裏の薬用成分の欄。枠の一文と数字で、濃さが分かる

見た目と濃さは、別です。子ども向けの箱で、大人と同じ濃さの物があります。大人っぽい箱で、数字の書いていない物もあります。からさを抑えた物には、小さい子に向けて作った物が多く、濃さも低めのことがあります。6歳未満の子の分の選び方は、このあとの「いちばん年下の年齢で」の所にあります。

量は、続けられる味で守る

からいのを、ほんの少しでは、目安の量に足りません。6歳からの量は、歯ブラシの毛先全体です。大人の歯ブラシで1.5〜2cm。子ども用の小さな歯ブラシなら、その毛先全体が目安です。寝る前を含めて、1日2回。みがいたら軽くはき出し、ゆすぐなら少しの水で1回だけ。寝る前は、みがいたあと、水のほかは食べたり飲んだりしません。

同じ大きさの歯ブラシを3本並べた図。1本目は毛先全体に歯みがき粉がのり「6歳から 毛先全体(1.5〜2cm)」。2本目は毛先の4分の1ほどの粒で「3〜5歳 5mmほど」。3本目は毛先の端に丸で囲んだ小さな粒で「2歳まで 米粒ほど(1〜2mm)」
年齢ごとの、量の目安。6歳未満は、「950ppm」の物で

ミントのからさは、香りや清涼剤によるものです。むし歯を防ぐ働きの中心は、フッ素です。からさの強さとは関係しません。子ども用の多くは、からさの強いハッカを使わずに、果物の味にしています。

からくて量が減るなら、道は3つ。上から順に試します。

  1. からさのおだやかな大人用:大人用の中で、裏に1450ppmなどの数字があり、からさをおだやかにしたと書いてある物(「やさしい」「マイルド」などの言葉)から試す。
  2. 子ども向けの味で大人の濃さ:子ども向けの箱でも、裏に1450ppmとある物です。まだ少ないけれど、店に並びはじめた物も、歯科医院で扱う物もあります。
  3. 濃さの低い物:数字の書いてある物(950ppmなど)を選ぶ。

3つめは、学会の目安からは外れ、むし歯を防ぐ働きは少し下がります。からさが苦手な子に、これを勧めている作り手もあります。選ぶなら、歯科でフッ素を塗ってもらう方法と組み合わせることも。かかりつけで相談を。どの道でも、フッ素の入った物を毎日。

家族で1本にできるかは、いちばん年下の年齢で

家族が全員6歳以上なら、1本にできます。味の合わない人の分だけ、もう1本足すのでもかまいません。

6歳未満の子の分:家族の分とは別に、「950ppm」と書いた物を選びます。「6歳未満は使用を控える」と書いてある物は、1000ppmを超える物なので使いません。900〜1000ppmの物は、作り手の団体の決まりで、まとめて「950ppm」と書きます。数字のない物は、950ppmより低いこともあります。低い分には害はなく、むし歯を防ぐ働きが少し下がるだけなので、今使っている物に数字がなければ、次に買うときに替えれば十分です。

量は、3〜5歳なら5mmほど(グリーンピースくらい)、2歳までは米粒くらいで、大人が出します。みがいたら軽くはき出し、ゆすぐなら少しの水で1回だけ。6歳からと同じです。小さい子は、まだ上手にはき出せないこともあります。少し飲み込んでも、健康に影響はないとされています。はき出し方は、大人が見て教えます。2歳までは、みがいたあと、ティッシュで軽くふき取ってもかまいません。みがいたあとは、大人が仕上げみがきを。

小さい子のいる家は、歯みがき粉はどれも手の届かない所に置きます。1000ppmを超える物には、チューブにも「子供の手の届かない所に保管する」と書いてあります。

もう1つ。歯みがき粉は、みがき残しのある所には届きにくいものです。生えかけの12歳臼歯や、6歳臼歯の溝、歯と歯の間は、自分でみがくと残りやすい所です。できれば毎晩、寝る前に大人が明るい所で見て、残っていればみがき直します。歯科では、フッ素を塗ってもらったり、奥歯の溝を埋めてもらったり(シーラント)もできます。定期的にみてもらいましょう。

濃さは、裏の数字で。量は、続けられる味で守る。1本にするかは、家族のいちばん年下で。

出典(名前を押すと、資料の説明のページへ)

歩いて行ける、ドラッグストアで

その週末、大人用のチューブが、とうとう出なくなった。

「歯みがき粉、一緒に選ぶ?」

あやめは、少し考えてから「いいよ」と言った。

歩いて行けるドラッグストアは、春に、シャンプーを選び直したのと同じ店だ。ボディソープの棚の前は、今日は通り過ぎた。

歯みがき粉の棚は、上の段が大人用、下の段が子ども用。キャラクターの箱が並ぶ下の段に、あやめは目を向けない。

みはるさんは、しゃがんで、キャラクターの箱を1つ、裏返した。「フッ素として1450ppm」。隣の、家のとは違ういちご味は「950ppm」。声に出して読むと、あやめも、ちらりとこちらを見た。子ども向けの箱でも、濃さはいろいろだ。

あやめは、上の段から1箱、取った。淡い色の、すっきりした箱だ。からさをひかえた、小学校の高学年向けの物らしい。

「これ、いいじゃん」

あやめは、箱を自分で裏返した。指で、薬用成分の欄をなぞる。

ドラッグストアの歯みがき粉の棚の前。灰色の半袖Tシャツのあやめが、淡い桃色の箱を片手に持って裏返し、もう片方の指で裏の欄をなぞっている。からし色の半袖ブラウスのみはるさんが、横から少しかがんで、同じ箱をのぞいている。手前の低い段に、色の明るい子ども用の箱が並ぶ

「……こっちは、数字、ないね。下のには、あったのに」

「からいのが苦手な子のために、作ってあるんだと思う。そういうのは、濃さも低めのことが、あるんだって」

あやめは、箱を棚に戻した。

上の段には、「1450ppm」と書いた物が、いくつも並んでいた。あやめは、その中から、ミントの書き方がいちばんおだやかそうな物を手に取った。

「どれくらい、出すの?」

「歯ブラシの毛先、ぜんぶ。歯医者さんの学会の目安なんだって。ゆすぐのは、少しの水で1回」

濃さは、大人と同じにする。味は、あやめと決める。

「これにする。からかったら、言う」

大人用の代わりに、この1本を、みはるさんとさとるさんとあやめの3人で使う。種類が1つなら、切らさないように見ておく物も、1つで済む。かえでは、いちごがなくなるまで、いちごのままだ。

その夜の、洗面所で

夜。コップの4本の歯ブラシの横に、まだふっくらしたいちごと、キャップを下にして立てる、新しいチューブが並んだ。

あやめが、店で聞いたとおり、歯ブラシの端まで出した。からそうに口をすぼめて、それでも、そのままみがいている。終わると、小さなコップに少しだけ水を入れて、1回だけ、ゆすいだ。

かえでが、新しいチューブを手に取った。

「それ、からい?」

「からい」

かえでは、チューブを戻して、いちごを取った。

次のいちごは、裏に数字のある物にしよう。店の下の段の、子ども向けで大人と同じ濃さの箱を、かえでに見せてみよう。

夜の洗面台の端。小さな鉢植えの隣に、底に少しだけ水の残った小さな透明のコップ。歯ブラシが4本入ったコップと、まだふくらんだピンクの子ども用のチューブ。右の端に、新しく立てたチューブの下のほうが見える。下は青く、上へ行くほど白い

「濃さは、もう、大人と同じでいい。味は、それぞれの速さで」