12月の、平日の朝に

冬の朝のリビング。下のほうから白く曇った大きな窓と、ソファの前のラグ、床に置いた加湿器

12月に入ったばかり。みはるさんは、この冬はじめて、リビングの暖房を入れた。

エアコンが、低い音で動きはじめる。掃き出し窓のガラスは、下のほうから白く曇って、桟に水がたまっている。

「また、濡れてる」

みはるさんは、タオルで、ガラスの下のほうを拭いた。床の加湿器のランプが、赤い。夜のあいだに、タンクが空になっていた。

起きてきたのは、娘のあやめ。小5の双子の、妹のほう。ソファの前のラグに、ぺたんと座る。

「……喉いたい」

声が、かすれている。みはるさんは、体温計を渡した。36度4分。

兄のかえでは、暖房の風が当たるソファに寝転んで、すぐに起き上がった。

「暑い」

トレーナーを脱いで、風の当たらない端へ移る。

夫のさとるさんが、ネクタイを締めながら入ってきた。鼻を、すん、と動かす。

「なんか、におわない?」

久しぶりに動いたエアコンの、ほこりっぽいにおい。さとるさんは、窓を少しだけ開けた。ガラスの上のほうに残っていた水が、すっと垂れる。冷たい空気が、足元に入ってきた。

「寒い」

あやめが、膝を抱える。

「ごめん」

さとるさんは窓を閉めて、「行ってきます」と出ていった。

開ければ、あやめが寒がる。閉めれば、かえでが暑がる。加湿器に水を入れれば、窓は、もっと濡れる。

洗剤もシャンプーも、前より迷わずに選べるようになった。でも、空気は、棚に並んでいない。

「なんか、すっきりしない。なんだろう」

加湿器か、除湿機か、サーキュレーターか。売り場を思い浮かべても、どれも、うちに要る気がして、どれも、違う気がする。

「何がいやなのか分からないと、何を選べばいいかも分からない」

あなたの家の「なんか、すっきりしない」は、何だと思いますか?

見方を変えて、ほどく

不快に名前がつけば、選ぶ物が見えてくる。

空気は、目に見えません。暑い、乾く、湿る、におう。いくつかが同時に起きると、はっきりしない不快になります。同じ部屋にいても、暑い人と寒い人がいます。

大切なのは、買う前に、一度立ち止まれること。空気のことなら、まず、困っていることを、ひとつずつ言葉にしてみる。

不快の種類で、分ける

乾いているのか、暑いのか、においなのか、湿っているのか。はっきりしない不快を、まず種類に分けます。種類ごとに、見る所が違います。

今の季節で、見る

冬は、乾燥だけでなく、結露も起きます。梅雨は湿気、夏は暑さ。同じ部屋でも、季節で不快の中身が入れ替わります。今の季節の不快から見ます。

しのぐか、空気を整えるかで、分ける

窓を少し開ける、1枚脱ぐ。これで、その場はしのげます。加湿する、空気をかき混ぜる。こちらは、空気そのものを整えます。しのげば足りる所と、整えたい所を分けます。

種類に分けて、今の季節の不快から。道具は、整えたい所にだけ選ぶ。

みんなが出かけた、リビングで

窓の下のほう。ガラスに残る水滴と、そのすぐ横に置いた加湿器

みんなが出かけたあと、みはるさんは、リビングをひとつずつ見て回った。気になる所を、不快の種類で分けてみた。

  • 乾燥

    「11月に出した加湿器は、朝には、いつも空になっている」

    冬の暖房の部屋は、乾きやすい。家の湿度は40〜60%が目安。低すぎると、のどや気管支の粘膜が乾いて、痛めやすい。加湿器を選ぶなら、箱の「適用床面積」が部屋の広さに合うかと、毎日タンクを洗えるか。水はつぎ足さず、毎日換えて、中を洗う。熱があったり、のどの痛みが続いたりするなら、空気のせいとは限らない。かかりつけで相談を。

    まず温湿度計で、今の湿度を見る。

  • 暑さと寒さ

    「エアコンの風向きは、つけたときのまま」

    暖められた空気は、天井のほうにたまる。だから、頭は暑く、足元は冷える。1枚脱ぐ、1枚着る。これで、その場はしのげる。エアコンの吹き出し口の向きを変える、サーキュレーターで空気をかき混ぜる。こちらは、空気そのものを整える。

    まず暑い人と寒い人がいたら、温度を変える前に、風の向きを見る。

  • においとほこり

    「エアコンのフィルターは、春から開けていない」

    久しぶりに動かす暖房は、においが出ることがある。こもった空気は、暖房中も、ときどき窓を開けて入れ替える。エアコンのフィルターは、使う季節のあいだ、2週間に1回ほど掃除する。掃除をしても、ふだんと違うにおいが続くなら、中を自分で洗おうとしないで、買った店やメーカーに相談を。

    まずにおいは、フィルターから。

  • 湿気と結露

    「ここ数日、朝いちばんに、窓を拭いている」

    冬の結露も、湿気の不快。暖かく湿った空気が、冷たい窓で冷やされて、水滴になる。だから、加湿すれば、窓は濡れやすくなる。でも、窓が濡れていても、部屋が湿りすぎているとは限らない。加湿をやめるかどうかは、窓でなく、湿度で決める。60%までなら、加湿はやめなくていい。結露は、換気と拭き取りで減らす。60%を超えていたら、カビやダニが出やすいので、加湿を弱める。部屋の中に排気する石油やガスのストーブは、燃えるときに水蒸気が出るので、ふつうは加湿がいらない。加湿を止めても湿度が高いままなら、除湿機という手もある。

    まず湿気を逃がすなら、寝る前に5分、窓を開ける。

目安の出典(名前を押すと、資料の説明のページへ):東京都「健康・快適居住環境の指針」(湿度・結露・温度・換気)、厚生労働省「レジオネラ症予防の指針」(加湿器の水)、日本冷凍空調工業会(フィルター)、製品評価技術基盤機構(エアコンの中を洗うとき)。

夜、タンクに水を

空になったタンクを、洗う。蛇口をひねると、新しい水が、たまっていく。かえでとあやめは、もう寝ている。

夜の台所。流しの灯りの下で、加湿器のタンクに水を入れている手

水の音を聞きながら、今朝のリビングを思い出す。

あやめの「喉いたい」。かえでの「暑い」。さとるさんの「なんか、におわない?」。

自分も、今朝、「また、濡れてる」と言っていた。

リビングに戻って、タンクをはめる。ランプが、緑に変わった。

明日、温湿度計を、ひとつ買ってこよう。

「『すっきりしない』の名前は、家族が、もう口にしていた」