届いた日の、午後

みはるさんの家のフライパンは、真ん中だけ、つやがなくなっていた。卵焼きの端がくっつき、双子の兄のかえでが焼いた目玉焼きは、黄身が崩れた。売り場で、かえでが持ち比べて「うちのより軽い」と言った1枚と同じ作り手の、26cmを頼んだ。

その1枚が届いた日の午後、みはるさんは、台所で箱を開けた。外側は、鏡のような銀。内側は、黒。握りは、木。

箱の中には、紙の取扱説明書が入っていた。作り手のページでは読み流していたことが、2つ、書いてあった。初めて使う前は、スポンジに中性洗剤をつけて洗う。料理に使う道具は、木やナイロン、プラスチックの物を。

前のフライパンは、流しの横に置いたままにした。

新しい1枚を、片手で持ち上げてみる。底は、厚いと書いてあった。

午後の台所。開けた段ボール箱の前で、くすんだ桜色の袖の手が、新しいフライパンを片手で持ち上げて傾けている。外側は鏡のような銀で、底のふちに細い輪の模様。握りは灰色がかった木。台の上に、白い説明書

「底は厚いのに、どこで軽くしたんだろう」

釜から始まった、鋳物の会社

作ったのは、北陸アルミニウム。富山県高岡市の会社で、1930年に始まった。会社は、創業者が「高岡銅器の技術をもとに」アルミ鋳物(いもの)の鍋や釜を作り始めた、と書いている。創業者がつくった品として挙げているのは、「長生釜」と名付けた羽釜(はがま)だ。

高岡市の資料も、高岡のアルミの産業は、銅器や鉄器の鋳物の技術から、昭和の初めに鍋や釜を作ったのが始まり、としている。市の博物館には、この会社が昭和の中ごろに作った、ご飯を炊く鍋(文化鍋)が、暮らしの道具の資料として収められている。

底は残して、横を削る

鋳物は、溶かしたアルミを型に流して、固めて作る。この会社の「センレンキャスト」は、2011年からのフライパンのシリーズだ。2015年の会社の発表には、底とふちを厚く、側面を薄くして軽くした、とある。みはるさんの1枚(センレンキャストFAN)については、「底面を厚く残し」、側面を削って軽くした、と作り手は書く。

鋳物の本体は「熱をたっぷり蓄え」る、と会社のページにある。本体は、アルミにマグネシウムを混ぜた合金。26cmで、重さは610g、底の厚さは2.6mm。

内側の塗料は、ダイキン工業の「Silkware EZ」。作り手のページには、「耐摩耗性試験200万回」とある。売り場の札で見たのと、同じ種類の数字だ。でも、注が付いていた。試したのは、塗料の作り手のダイキン工業。日本産業規格(JIS)の試験の、やり方に「準じ」て。そして、「塗料に対する評価です」。

つまり、このフライパンそのものを試した回数ではなく、何年もつかの数字でもない。だから、ほかの物とは比べない。みはるさんが決めたのも、この数字ではなかった。底を残して横を削った作りと、売り場でかえでが片手で持てた重さだった。

数日後、段ボール

前のフライパンは、まだ流しの横にあった。

頼むとき、みはるさんは、作り手の店の「リサイクルに参加する」に、印をつけていた。店のキャンペーンで、印をつけると値段から1,000円引かれ、届けてもらう送料もかからない。そのかわり、使わなくなったフライパンを手放す。店へ送り返す。送るのが難しければ、住んでいる町の資源ごみに出してもいい、と店は書いている。

店へ送るなら、送料は自分で払う。資源ごみなら、かからない。店は、どこの作り手のフライパンでも受け付けて、分けて、使える物を溶かし、アルミの地金(じがね。材料のかたまり)にする、と書いていた。

少し迷って、みはるさんは、届いた箱を組み直した。溶かして地金にする、と行き先まで書いてある、店に送るほうにした。

台所の台の上。開いた段ボール箱に、淡いミントグリーンのカーディガンの袖の両手が、内側が濃い灰色で黒い持ち手のフライパンを入れている。横に白紙の伝票とペン

前のフライパンを入れて、ふたを閉じる。伝票に、店の住所を書いた。

台所のガスコンロの左の口に、外側が銀で木の握りの新しいフライパン。中火の小さな青い炎が底の内側に収まり、卵がふたつ焼けはじめている。淡いミントグリーンの袖の手が握りに添えられ、台の上に木のへら

合う家、合わない家

ガス火で、中火までで使うなら、合う1枚

IHでは使えません。強火で一気に炒めたい家にも、向きません。フライパンの選び方で見る3つに当てはめると、こうなります。

  • 長持ちは作りで:取っ手の留め方は、作り手のページでは確かめられませんでした(取扱説明書の締め直し方の図は、この作り手のガス火用のフライパンに共通の図です)。底は、作り手の説明では厚く残してあり、2.6mm。表面の加工は、使ううちにすり減ります。
  • 大きさは今の1枚で:26cm(ふちの内側の直径)。ほかに20・24・28・30cm、深型、いため鍋もあります。
  • 重さは使う手で:26cmで610g。売り場でかえでが片手で持ち上げた1枚と、ほとんど同じ重さです。
手前を切り取った銀色のフライパンの絵。切り口は、底が厚く「底は厚く残す(2.6mm)」、側面は薄く「側面は削って薄く」。内側は黒、取っ手の握りは木
作り手の説明から描いた絵。厚さの比は実物どおりではありません

合うのは、こんな家

  • ガスコンロで、中火までで使う家。取扱説明書は、火を中火以下に、炎を底からはみ出させないように、と書いています。予熱は30秒ほど。道具は、木やナイロン、プラスチックの物を使います。
  • 今のフライパンの大きさで、困っていない家。同じ大きさを選べます。サイズごとの重さは、下の「もう少し詳しく」に。
  • 持つ人の手で、重さを選びたい家。26cmで610g。子どもが使うときは、大人がそばで見ていること。使い終わったフライパンも、しばらくは熱いままです。小さな子がいる家では、取っ手を奥に向けておくと、手が届きにくくなります(製品評価技術基盤機構・消費者庁の注意)。
  • 前のフライパンの行き先も、決めたい家。作り手の自社サイトの店に、使わなくなったフライパンを受け付けるキャンペーンがあります(2026年10月3日に確認。楽天の店のページには見当たりません。いつまで続くかは書かれていません。条件は下の「もう少し詳しく」に)。

合わないのは、こんな家

  • IHの家。ガス火だけで使う型です。IHでは使えません。
  • 強火で一気に炒めたい。取扱説明書は、火を中火以下に、と書いています。ふっ素樹脂は約260℃を超えると傷み始める、とあります。
  • 金属のへらを使いたい。取扱説明書は、木やナイロン、プラスチックの道具を、と書いています。
  • 食器洗い機で洗いたい。使えません。取っ手ごと水に浸けて洗うのも、しないように、とあります。取っ手の作りによっては、中に水がたまり、部品がさびたり、次に火にかけたとき取っ手が熱くなったりするから、と取扱説明書は書いています。
  • 揚げ物もしたい。取扱説明書は、フライパンを揚げ物に使わないように、と書いています。このシリーズの深型フライパン(24・26cm)やいため鍋なら、揚げ物に使えます。
  • 加工のはがれを気にせず、長く育てたい。表面の加工は、いつかすり減ります。鉄のフライパンという選び方もあります。
  • 値段を抑えたい。みはるさんにとっても、前のフライパンを買ったときより高い1枚でした。値段は、下の「買える所」に店ごとに書いています。

この1枚の要点

  • 型番北陸アルミニウム センレンキャストFAN フライパン26cm(A-2813)
  • 大きさと重さ26cm(内側の直径)、高さ6.2cm、610g、底の厚さ2.6mm
  • 熱源と内側ガス火だけ(IHは不可)。内側はふっ素樹脂加工(ダイキン Silkware EZ)

この1枚を買える所

もう少し詳しく

  • サイズと重さフライパン:20cm 480g・24cm 550g・26cm 610g・28cm 680g・30cm 790g深型フライパン:24cm 570g・26cm 630gいため鍋:30cm 770g(作り手の数字)
  • 手入れスポンジと中性洗剤で洗う。金属たわし・クレンザーは使わない。料理を入れたまま置かない。使ったあとは、よく乾かす
  • リサイクル作り手の自社サイトの店のキャンペーン(楽天の店のページには見当たりません)。頼むとき「リサイクルに参加する」を選ぶと、1,000円引きで、届けてもらう送料も無料。届いたら、使わなくなったフライパンを店へ送る(送料は自分で。送るのが難しければ、住んでいる町の資源ごみに出してもよい、と店は書いています)。店は、受け付けた物を分けて、使える物を溶かし、アルミの地金にする、と書いています。リサイクルの地金を作るエネルギーは、新しく作るときの約3%(日本アルミニウム協会。アルミ一般の数字)(2026年10月3日に確認)
  • 部品修理に使う部品は、作るのをやめてから最低5年持っている、と作り手は書いています(会社全体の決まりで、この1枚にどの部品があるかは書かれていません)
  • 作る所作り手は、富山県高岡市で「自社で一貫して製造」と書いています
  • 困ったとき北陸アルミニウム お客様相談室(0766-31-3501、平日 9:00〜17:00)